セントラル・リーグの構造的問題点 |
http://www.npb.or.jp/statistics/atttime_2015cl0616.html
セリーグ全チームが負け越しとなった昨晩、友人O君のTLでちょっとした議論になった。
「それだけセリーグは選手の偏りが無くなったって事だと思う。つまり、どの球団も等しく人気がある。なので、いい選手が満遍なく各球団に散らばる」
「球場が盛り上がるのは地域経済的には結構だけど、にわかファンが多くて、熱が冷めると(女子がいなくなると)潮が引くようにいなくなるんじゃないかな。いろいろ構造的に問題が吹き出しているように思う。経営努力の差、とも言える。パリーグは、個のチームとしてもリーグ全体でも努力してるけど、セはやってないもん」
●セントラル・リーグが弱くなったのは構造的問題に由来するか、それとも個々のチームの育成/指導の問題か。
この点について、1-5位が0.5ゲーム差にひしめくダンゴレースを面白いと見るか、という点とも絡めて書いてみたい。
①添付した統計でもわかるが、広島と横浜の観客動員数が昨年より二桁増加している。ただそれ以外のチームは微増・微減。広島はご存知の盛り上がり(これについては意見がある)、横浜はDeNAの企業努力と監督以下のファン重視スタンス、そして何よりも試合が面白いことが背景か。東京ドームの読売のゲームは去年から全試合観戦しているが、統計上の入場者数は4万人を超えていて、ほぼ満員と発表されるが現実には空席が多い日も結構ある。神宮の一塁側はかなりお寒い状況で、席を埋めるために呼んだ内野のベンチ上あたりに陣取る修学旅行生が帰ると、ゲームが佳境になったのにガラガラの状態になる。甲子園は折角の80周年だがチームが乗らない状況で、助っ人依存もあって今一つ盛り上がっていないようだ。名古屋は入れ物が大きいだけに空席が目立つが、成績もさることながらチームに新味がなくまたファン目線での対応が不足しているとの声も聞かれる。
②もともと地上波TVの放映料と親会社からのミルク補給(広告宣伝としての費用負担)で成り立っていた球団経営だが、視聴者の趣味関心の多様化に伴い、地上波コンテンツとしては訴求力の低下に晒され収入が減少。さらに本業不振で広告費用削減を求められた親会社の撤退など、外部環境が大幅に変化した。TV放映料で言えば、日テレ放送網の巨人戦全国放送に各チームが依存していたことは事実。実際にON、原、松井といったスーパースターを擁したチームには絶大な人気があり球場も巨人戦だと人が入る。阪神ですらこのような状況だった。「人気のセ」と言われていただけに、相対的に球団経営は安定していた。結果としてその構造に安住していたため、改革が遅れた。このデイリーの記事は、元虎番記者が書いているだけに生々しい。http://www.daily.co.jp/tigers/ex-tora/2015/06/22/0008144136.shtml
③巨人戦がなく放映料収入に頼れないパリーグは、広告宣伝費名目で球団を持つ親会社の変遷が時代背景を現す。映画配給会社、電鉄会社からITへ。金満補強ではSB孫さんに勝てない、そんな時代になった。もはや球団経営はお荷物ではなく、儲かる企業にとって彼らの顧客に訴求するコンテンツの一つとなった。そのコンテンツが自社サービスの付加価値として経営に貢献する。セリーグでもDeNAはその目論見と勝算があったから参入し、そして成功している(ように見える)。
④球界の盟主として君臨した読売に対して敢然と戦いを挑んだのが西武の堤オーナーと「寝業師」根本氏。80年代の西武ライオンズの強さは、いい選手を集め優れた指導者が指揮すれば連覇ができることを示した。また90年代後半のイチローの登場は、一人のスーパースターが大げさに言えばチームを変え、観客を呼べることを証明した。O君のいう「選手の偏りがなくなって、いい選手が各チームに散らばる」。それはその通りだが、今やいい選手はパリーグに流れている。そういうドラフト戦略だからだ。「その年のナンバーワンを指名する」日ハム。楽天も含めて確かにくじ運がいい。が、ダルにしても田中マー君にしても、大谷や松井裕樹にしても。読売は原も松井もくじで勝ち取った。そのリスクを取ったからリターンがあった。
⑤侍ジャパンに選出される、誰しも認めるスーパースターがどれだけセントラルにいるか。誰だって大谷を見たい。柳田を見たい。高卒二年目で最多得票の森友哉のフルスウィングも。まあそれに対抗できるのは筒香くらいかな。セリーグのラインナップにはイキイキさがない。まさに「昔の名前で出ています」状態。もはや阿部でも鳥谷でもないよ。ましてや新井さん。ここはファン投票で畠山を選んで欲しかった。監督推薦で畠を選ばなかったことに批判が出ているが、原監督がカープの田中を坂本でなく選んだことは評価すべき。田中の闘志あふれる攻守はいい。それでも今宮の方がフレッシュだな。これは蛇足。
⑥自力で立つ努力を各チームとして進め、地域代表としての色を明確にし、リーグとしてインターネットTVや統一webなどデジタル時代にいち早く対応したのがパリーグ。個の選手としての実力も、キャラも揃ってきた。もはや、プロ野球チームとしてのコンテンツとその提供スタイルはセリーグを凌駕しつつある。セリーグ各チームは、まだ旧来の経営スタイルから脱却できていない。http://www.npb.or.jp/cl/セントラル・リーグの公式サイトは3/27から更新されていない。パリーグは7/1の更新が最新だ。
⑦市民球団としての広島カープの歴史には敬意を払うし、ズムスタのコンセプトは素晴らしい。それだけにしっかりした親会社が存在しているにも関わらず、「うちの球団は清貧だけど頑張ってる」と昔の名前で(ファンが)アピールするとしたらやめた方がいい。女子人気をリードし、独自のファン獲得手法に対する努力も、それが独善的にならないのならいい。ただ、その人気が一過性に終わらないか危惧する。横浜戦でビジターパフォーマンス席を赤く染めたのはやり過ぎ。Gフランシスコの拙守を嗤うTシャツを販売したのは論外。洒落と笑い飛ばせない。相手あってのチームスポーツだからだ。東京ドームでも、innocentなんだろうけど赤ユニのマナーは良くない。
⑧もはや地上波放映料に依存する時代ではないのだから、個の球団経営・施策がリーグやNPB全体の繁栄につながるような対応を期待したい。誰が見ても力量が劣るリーグで、結果だけ見てダンゴレースであったとしても、試合内容に魅力を感じないと面白くない。大谷対柳田、松井対森といったワクワクする対決がないからだ(個人的には角中の変態打ちは別の意味でワクワクする)。セリーグは読売依存という7-80年代の構造から、まだ完全に脱却できていない。勿論今や読売に依存はしていないが、赤や黄色のビジター入場者で潤っている球場が確実に存在するから、まだ構造的問題は残っている。以前NPB関係者から聞いた話では、パリーグTVに倣ってセリーグTVができないか、或は一気にmlb.tvのようなコンテンツをネットで出せないかといった議論もあるというが、その場合に反対するのがセリーグの地方球団(複数)と。
⑨去年は63+4試合、今年も東京ドームには36試合通っている。ビジター+遠征で言えば去年は22試合。今年は既に21試合。各チームとも趣向を凝らしファン獲得に努めているのはわかる。グラウンド開放企画はいい。首都圏チームで同時にやったり、東京シリーズで神宮のグラウンドに降りたり。集客に向けた努力は認めるが、それはあくまで枝葉。幹の部分の「チームを強くする」「魅力的なチームを作る」という点で、ただ金をかけるのではなく、コンセプトがわかるように(オリックスやヤクルトの今年のカネの使い方は、まだまだだなという印象を与えた)。まさか球団の採算が取れればそれでいいというチームが今や存在しないことを信じたい。観客数が4万人を越える東京ドーム。最近では最も歓声が大きいのは終盤の僅差の場面での代走鈴木尚広が出てくる場面だ。それでいいのかという指摘は横に置き、尚広の足にそれだけコンテンツとしての価値があるということ。以前は、大敗していても松井秀喜の打席までは見て帰る観客が多かったと聞く。
⑩パリーグの変革は、日ハムの札幌フランチャイズ化、近鉄の離脱による1リーグ議論を経て楽天の参入といったイベントが契機になったと言える。ソフトバンクにしてもオリックスにしてもカネはある。西武の育成の上手さ、千葉のファンのマナーは素晴らしい。誰かに依存するのではなく、自らの価値がリーグ全体の価値に。そんな理念がセリーグにも共通に流れるようになればいいのだが。